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白い追憶

サイトのおしらせや設定のメモ帳

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memo

【紫の理の会】などというと胡散臭さが漂うものだが、【紫】の由来は会の長が紫の座にある魔術師であること、そして【理】というのは単純に魔術をさす。つまり、紫の理の会とはわかりやすく言ってしまえば、紫の魔術師ロベルティカ・カナンの魔法会。という捻りも何も無い、単純な命名なのであった。
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フローリア



魔王が引っ越して来た。第三話のイメージマンガっぽいものを描いてみようと思ったけど三コマで挫折したシロモノ。

魔王が引っ越してくる前

雨1


 雨が降っている。
 僕は雨は好きじゃない。理由は別に雨が鬱陶しいとかそういう理由ではなく、1つ目はこのアパートがあまりにもアレなため、雨漏りしてくるせいだ。このアパートは三階建て。つまり最上階のこの部屋は雨の打撃をモロに受けるのだ。
 全く、碌でもないアパートである。
 首都はあんまり雨が降らないので、それだけが救いだろうか。
 というか、住人皆が修理しようとか言い出さないのは、それが理由なのだと思われる。
 二つ目は、四軒隣の吟遊詩人見習が、雨の詩とか言いながらわけのわからん音楽を演奏し始めることだ。正直頭が痛くなる。
「ったく、勘弁してくれよ……」
 今は夜、雨が降ると夜の仕事がなくなるので、久々に夜にゆっくり休めると思ったらこれだ。まあ、雨が降ると奴が歌いだすのはわかっていたことなので、夜にゆっくり休めるなんて少しでも思った僕がバカなだけかもしれんが……。というか本当にバカだなあ……。
 なんか気が滅入ってくる……。
 いっそ、余所に寝床を求めるのはどうだろうか。
 うん、なかなかいい考えかもしれない。


 宿泊セットを抱えた僕は、知人の部屋の扉を叩いた。
 泊めてくれそうな奴筆頭。以前僕は夜中に転がり込んできた彼を泊めてやったことがある。まさか恩を仇で返すまい。
 しかし、
「泊めてよ」と僕がいうと、凄く不機嫌な表情の彼は間髪いれずに、
「バカか」
 という返事を返してきたのだ。奴は非常に冷たかった。その三文字の言葉には、断固として泊めてなんてやるかという意思が、強く強くこめられていた。
 しかし、ここで引き下がると地獄のアパートに逆戻りだ。
「いや、マジで困ってるんだって。助けてくれよ」
「かえれ」
 先ほどと同じ、いや、或いはそれ以上の拒絶が返って来る。
 縋ってみても無駄だった。奴は本気の目をしていた。
「くそう、覚えてろ!! いつか復讐してやる!」
 二度と泊めてなんてやらねえ。


 追い返された僕は、夜道をとぼとぼと歩きながら考えた末、結局お泊りを諦めることにした。
 夜中雨の町を歩き回ったせいですっかり体が冷えている。
 ヘロヘロと帰宅した僕は凍えながら、怪しい詩を聞きつつ一晩を過ごすことになった。
 一体僕は何のために出かけたのだろうか……。


 翌日僕は風邪を引き、寝込むことになる。
 寝込んでる僕の耳に、相変わらず音楽は届き続けた。
 正に踏んだり蹴ったり。
 雨なんか大嫌いだ。
 転んだら起きるどころか地獄の果てまで転がり落ちてしまった僕だったとさ。
 めでたしめでた……くねえ。
 というか、吟遊詩人見習、あいつは一体いつ寝てるんだ?
 詩が一日中途切れることが無いんだけど。
 吟遊詩人見習の謎が一つ増えてしまった出来事だった。

魔王が引っ越してきた2

魔王が引っ越してきた。第二話。


 お昼の鐘が鳴った。
 ちょうど正午。僕の意識も限界だった。眠い……。
 あまりの眠さに実験も全く進んでなかった。なんか時間の無駄遣いをした気分だ……。夜は仕事があることを考えるとさっさと寝るべきかもしれない。眠れないから起きてたわけで、眠れるなら眠らない理由もないし、うとうとして薬ひっくり返したらしたら泣くしな……。お昼ごはんももういいや。
「うあーおやすみ」
 誰にともなく挨拶して、僕は布団に倒れこんだ。安い布団だから固くて痛いが別にそんなことはどうでもいい。
 あっという間に意識が沈んでいく。
 睡眠に落ちる瞬間が僕は好きだ。ぷっつりと意識が途切れるのがいい。
 しかし、そんな僕の至福の瞬間は控え目なノックの音で壊されてしまった。
 こんこん……。と、本当にかすかな、何か用事をしていたら聴こえないほどの小さな音だ。眠りの瞬間、神経が鋭敏になってなきゃ僕は気付かなかっただろう。
「はいー?」
 新聞の勧誘ならお断りだ。あんなもの研究室でただ読みできる。まあ、こんなに自己主張の弱い新聞のセールスもいないだろうが。僕が新聞の営業所長なら三日で首だ。
 僕は眠りを邪魔されて不機嫌だったが、そんなことを表情に出さないように気合を入れる。
 笑顔、営業スマイルってやつだよ。……僕が営業してどうするんだろう。
「ちょっとまってねー」
 適当に声をかけながら起き上がる。よく考えると無視して寝ればよかったのかもしれない。こんな自己主張薄い知人は持ってないから、この訪問者が知り合いでそれを無碍に扱うってことはなかっただろうし。知り合いでもない奴に愛想をするほど僕はいいやつじゃないぜ。
 しかし後の祭り。後悔先に立たずだ。僕はもう返事しちまったのだった。めんどくせえ。
「はい? 新聞なら間に合ってますよ?」
 扉を開けると、黒髪の青年が立っていた。見たことのない顔だ。
 軽く切りそろえた短髪に、清潔感あふれたごく普通の服を着てる、爽やかな青年である。しかし、爽やかさの中に……辛気臭さを感じる。……なんか全体的に。
 彼が俯いてるからそう思うのだろうか。それだけ俯いてると僕の顔など見えてないだろうなあ……。
 別に嫌なタイプではないのだが、近くにいると気が滅入るような、そんな人だった。
 初対面の人に散々な言いようである。ごめん。
「……隣に引越ししてきました。その挨拶に……」
 上の空になってた僕を正気に引き戻したのは、彼の声だった。
 声はイメージどおり辛気臭い。
 というか、消え入りそうなか細い声だ。
 しかし、なるほど。内心手を打つ。引越ししてきたということはそうなんだ。この人が魔王なのか。
 あんまりじろじろと観察するのもアレなので、僕も軽く挨拶した。
「どうも、302号室のクレスタです。よろしく。……魔王さんですか?」
 まるで今はじめて知ったかのように、隣の表札を見ながら尋ねると、青年は小さく頷いた。
「……ええ」
「…………」
 ……間が持たない。赦してください。
「……よろしく」
 テンポがずれてる……。
 のんびり魔王の次の言葉を待つ間に、僕は考え事をすることにした。
 そういえば、僕は引越ししてきた時引越し挨拶なんかしなかったなあ。まあこのアパートにはろくでもない人物――僕自身も含めてだ――しか住んでないから、挨拶するとトラブルに巻き込まれてた可能性が高い。そう考えると僕の選択は正解だろう。近所の一人は今は亡き詩人だしな……。
 考え事は終わった。しかし魔王は何も言わない。
「……どうしました?」
「……帰ってもいいんでしょうか?」
 …………。 
 どうしてくれようか。
 殴ろうか? 考えた時、しかし魔王は少し変わったリアクションを取った。一歩下がったのだ。まさか僕の心を読んだのか!! その魔法が彼が魔王と呼ばれる理由なのか!? とか一人で盛り上がってみたが、そんなわけねえ。……一人ボケ突っ込みが過ぎるな、今日の僕は。
「……どうしました?」
 今日二回目だ。『どうしました』。
 見れば魔王は、俯いてた顔を上げ、僕の顔を見ている。いや……顔より上。髪か? 寝転んだ時寝癖がついてたか?
 って、そんなんじゃないよな。
 真っ青で血の気が引いてる。脂汗まで出てる。こりゃあ体調が悪そうだ。もしかして、声が小さく歯切れが悪かったのは体調不良か? そう考えるとわけのわからん言動にも納得がいく。上を見てるのは息が苦しくてあえいでるのだ。多分。
 仕方ねえなあ……。
 家の前で倒れられても猟奇殺人事件みたいでアレだし、送ってやろう。隣だしな。
 果たして、魔王は素直に送られてくれた。

魔王が引っ越してきた

「魔王が引っ越してきた」第一話


 今日、隣に魔王が引っ越してくるらしい。
 ここは首都下町の安いボロアパート三階。ちょっと騒ぐと階下から罵声が飛んでくるし、隣家の物音は筒抜けだ。つい最近まで四軒隣の吟遊詩人見習――見習だよなあ……?――の楽器の音が一日中五月蝿かった。大家に訴えたら断末魔の悲鳴の後は何も聞こえなくなったが。そういう僕も割とやかましい方なので、そのうち吟遊詩人の後を追うかもしれない。名も知らぬ詩人よ、地獄で会おう。
 と、微妙に脱線したが、壁が薄いのみならず、壁や天井に穴もあいていたりする。大家は『ネズミ捕りの魔物を壁の隙間に放っているのだ、これはその魔物を送り込むための穴だ。ここは高級マンションだからケアも万全なのだ』と主張していた。まあ、確かにネズミもゴのつくアレも出ていないので真実かもしれない。でも、そんな魔物見たことないし、ネズミもゴのつくアレもいないのは、僕が毎日その穴に捨ててる実験薬の効果でなはいのだろうかと思ったりもする。大体、そんな魔物がもし本当にいたとしても、僕の薬で死んでるかもしれない。すまない大家。ちなみに人体には悪影響はないはずだ。少なくとも僕はまだ死んでない。
 そんなろくでもないアパートに暮らす僕の隣家の表札、それは『魔王』である。
 昨日までその部屋は空き部屋で、そんなものはかかってなかった。今日朝帰ってたらかかってた。
 それにしても、魔王にしてはアレな所を根城に決めたもんだ……。
 魔王ってのは、隣の大国を乗っ取った奴とか、不治の病と言われていた病気の治療薬を開発した奴とかそういうやつのことだ。魔王ってのはでかいことをしでかした――しでかしたことの善悪はあまり関係ない――魔族につく称号みたいなもんなんで、世界にはゴロゴロ魔王がいるわけだが、そのうちの一人が引っ越してきたわけである。
 ちなみに人間が同じようなことをしたら魔王じゃなくて賢者とか呼ばれる。魔族が王で人が賢者なのは何でだ。人王でもいいじゃんか。あるいは賢人賢魔でも。と思うが、言葉尻捕らえて悩むのもあほらしいほどどうでもいいことである。どちらかの言葉が悪いわけでもない。そもそも深い意味は無さそうに思えた。
 この疑問を後に教授にぶつけると、『ああ、なんだかんだ言って人は身体能力が魔族より劣るから、王というより賢者といった称号がしっくりくる功績が多かったんだ』なんて返事が返ってきた。時が経つうちに功績の内容問わずそう呼ぶのが慣習となったらしい。
 まあ、魔法が優れてて体もがんじょーな魔族のほうが、『王』みたいなタイプの功績は立てやすいんだろうなあ。大体の魔王は国乗っ取りとか、魔物征伐とか覇によって称号を得てるわけだし。
 そんなわけで、魔王というのは大抵金持ちなので、こんなヤバメのアパートに暮らす魔王なんて非常に珍しいのではなかろうか。
 ちなみに僕は人である。魔族にはありえない無駄に派手な金髪がその証拠だ。僕は人です!! と看板下げて歩いているようなそんな色だ。この国では人より魔族のほうが多いので、激しく目立つ。悪目立ちという奴だ。魔族のほうは茶と黒と赤に加え、ピンクとか変わった色も多いカラフルな種族だ。金髪がいないのは永遠の謎で、友達も研究していたがさじを投げた。解き明かせば友人も賢者の称号をもらえたのかもしれない。ちなみに、黄色い髪はいる。いないのは金髪だ。
 それにしても、魔王か……。やっぱ特に有名な何人かの魔王達のように体格がごつかったりするのだろうか。本に載ってた姿を思い出してみる。
 僕は魔王は見たことがないが、賢者は幾度か見たことがあったりする。この国では人の数は少ないのに、割と賢者はゴロゴロいる。というより、何処の国でも少数派に多く現れているような気がするのだ、魔王とか賢者とか優れた功績者は。南方の聖都は人の国だが魔王がゴロゴロいるともいうしなあ。ちょうどこの国と正反対な感じなのだろうか。
 魔王という言葉がきっかけで、考え事が深まっていく……。
 結局眠れないので、僕はいつもの実験の続きをすることにした。
 最近夜は別の仕事をしてるので、実験が滞りがちになってたのでちょうどいいかもしれない。

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