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白い追憶

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魔王が引っ越してくる前

雨1


 雨が降っている。
 僕は雨は好きじゃない。理由は別に雨が鬱陶しいとかそういう理由ではなく、1つ目はこのアパートがあまりにもアレなため、雨漏りしてくるせいだ。このアパートは三階建て。つまり最上階のこの部屋は雨の打撃をモロに受けるのだ。
 全く、碌でもないアパートである。
 首都はあんまり雨が降らないので、それだけが救いだろうか。
 というか、住人皆が修理しようとか言い出さないのは、それが理由なのだと思われる。
 二つ目は、四軒隣の吟遊詩人見習が、雨の詩とか言いながらわけのわからん音楽を演奏し始めることだ。正直頭が痛くなる。
「ったく、勘弁してくれよ……」
 今は夜、雨が降ると夜の仕事がなくなるので、久々に夜にゆっくり休めると思ったらこれだ。まあ、雨が降ると奴が歌いだすのはわかっていたことなので、夜にゆっくり休めるなんて少しでも思った僕がバカなだけかもしれんが……。というか本当にバカだなあ……。
 なんか気が滅入ってくる……。
 いっそ、余所に寝床を求めるのはどうだろうか。
 うん、なかなかいい考えかもしれない。


 宿泊セットを抱えた僕は、知人の部屋の扉を叩いた。
 泊めてくれそうな奴筆頭。以前僕は夜中に転がり込んできた彼を泊めてやったことがある。まさか恩を仇で返すまい。
 しかし、
「泊めてよ」と僕がいうと、凄く不機嫌な表情の彼は間髪いれずに、
「バカか」
 という返事を返してきたのだ。奴は非常に冷たかった。その三文字の言葉には、断固として泊めてなんてやるかという意思が、強く強くこめられていた。
 しかし、ここで引き下がると地獄のアパートに逆戻りだ。
「いや、マジで困ってるんだって。助けてくれよ」
「かえれ」
 先ほどと同じ、いや、或いはそれ以上の拒絶が返って来る。
 縋ってみても無駄だった。奴は本気の目をしていた。
「くそう、覚えてろ!! いつか復讐してやる!」
 二度と泊めてなんてやらねえ。


 追い返された僕は、夜道をとぼとぼと歩きながら考えた末、結局お泊りを諦めることにした。
 夜中雨の町を歩き回ったせいですっかり体が冷えている。
 ヘロヘロと帰宅した僕は凍えながら、怪しい詩を聞きつつ一晩を過ごすことになった。
 一体僕は何のために出かけたのだろうか……。


 翌日僕は風邪を引き、寝込むことになる。
 寝込んでる僕の耳に、相変わらず音楽は届き続けた。
 正に踏んだり蹴ったり。
 雨なんか大嫌いだ。
 転んだら起きるどころか地獄の果てまで転がり落ちてしまった僕だったとさ。
 めでたしめでた……くねえ。
 というか、吟遊詩人見習、あいつは一体いつ寝てるんだ?
 詩が一日中途切れることが無いんだけど。
 吟遊詩人見習の謎が一つ増えてしまった出来事だった。 続き書いてて、キャラクターが掴みづらかったので(自分のキャラクターなのに!)お礼SSも兼ねて練習しようーと思って練習に書いた奴。

『奴』が前転がり込んできたのは女性関係のトラブル。で、今回は泊めてくれなかった理由は何か、というと、答えはそんなもんです。
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