親から貰った名前:エルティオ
売られた先で呼ばれた名前:アークトゥルス
エルティオでもアークトゥルスでもなくなってからの自称:エルトアーク
ループ・シィに呼ばれる名前:エルタ
売られたときにエルティオではなくなったけど、つけられた名前も受け入れがたい。
けど確かに過去はそういう生き物だったなあ、捨てるのもどうよ。と自分で合成した名前がエルトアーク。
問題はループ・シィがエディシア・ルーの影響で愛称で呼んできたことだった。可能ならば他人からも呼ばれたかったのである。
エルトアークという少年は謎に包まれた人物である。
と言うことにループ・シィが気づいたのは、ごく最近のことである。彼女は彼の怪しげな言動につい最近まで特に違和感を覚えることはなかった。そもそも、彼女が深く見知った人物は当のエルトアーク少年とエディシア・ルー研究員のみ。そのうち研究員については、彼女の自我が発達しておらぬ時期のほうが付き合いが長く、その頃のことはろくに覚えていない。つまり比較対象がないため、エルトアーク少年のあやしげな言動は、常識的なものだと思い込んでいたのである。しかし、人との関わりが深まるにつれ、どうやらエルトアークはどこか変だということに彼女は気付いた。
たとえばである、一度目の旅の時、彼はたまに何処からか大金を手に入れていたり、東方領に不法侵入する道を知っていたりした。これは非常に怪しいといわざるを得ない。
二度目の旅では金銭に困窮するようになったが(これまた理由は謎である)、やはりふらりと出かけてはなんらかの方法で金を稼いでくる。
更にどうでもいいことだが、偉そうな言葉遣いの連中は大方自分が偉いと思い込んでいるようだが、エルトアーク少年(面倒なので以降はエルタと略す)はその偉そうな言葉遣いの割に、別にそんな風には思っていないようである。今現在も、表で鼻歌を歌いながら洗濯をしている。ループ・シィの知る限り、偉いと思い込んでいる人間はご機嫌に洗濯などしないものである。
「エルタって、何者なんだ」
単刀直入にループが問うと、エルタはご機嫌だった洗濯の手を止めた。油の切れた機械のような動作で、彼は彼女を見上げた。
「な、なんで?」
今更そんなことを気にするのか。と続けたかったエルタだが、後半は声になっていなかった。
エルタの引きつった表情に、ループ・シィは酷くまずいことを聞いたような気がしたが今更言葉は戻らない。
退くのがだめなら攻めてみろ。こういった場合、うやむやにするのが最大の悪手だ。誰に習ったのか分からぬ言葉が、彼女の背を思い切り押した。
「単純に、純粋に、知りたいから」
赤くなったり青くなったり、首を振ったり、髪をかき乱したりしながら唸っていたエルタは、観念したように息を吐いた。
「はじめてあったとき、やってたあれが本業だ」
声は硬い。
普段から硬質な言葉を紡ぐ彼だが、このときの声音はそれらとは根本的にことなったものだった。
それもそうだろうと、ループは思う。
何せ、二人の出会いは人殺しから始まったのである。
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